第一部

β
おいアテネ、何かまだ言うことがあるんじゃないのか?
α
……………………………え、おれ!?
β
そーだ、お前のことだ。
α
え、でも、オマエ、αだからってアテネですかよ。
β
そーですよ。αから始まるからアテネだ。それから「オマエ」とかゆーな。
α
え何、やっぱアテネっぽくしゃべらなきゃ行けないん?
β
そう。
α
あー……まあいいけど。
β
さあそれで、おお勇猛なるゼウスの娘、見目麗しきアテネよ、どうか私に語ってくれないか、もしも他にまだ言っておかなければならないことがあるのか、それともそうではなくて、これ以上特に言うべきことはないのであるか。
α
……そのプラトン口調はどうしたことだ。
β
そーじゃねえだろ! もう、ちゃんとやれよお!
α
そんな怒んなよ。ちょっと驚いただけじゃねえか。
β
アテネっぽくしゃべれってことだよ。……いいか? で、どうだ? 何か言うことあるんじゃないのか?
α
ええ、無いとは言いきれないわね、そう、有るってこと。まったく、ほんと、勘のイイ坊や……。
β
………そんなアテネやだ…。
α
あら、贅沢を言ってる場合かしら? そんなことより、私に言わせて頂戴、他に言っておかなきゃならない用件があるんだから……。
β
分かった。頼む。
α
フフ……、物分かりのイイ子は好きよ…? …………………。
β
いいからしゃべれよ!
α
ええ、そんなに怒らないで…? ちゃんと話すわ。そう。あれはまだ雨の冷たい頃のことだった…。
β
……。
α
あたしは駆け出したの! 傘もささずに訳も分からず、ただ、あの人のことだけを思い描いて、夜の街を走り抜けたわ…!
β
………。
α
このあたしに愛をくれたのはあの人だけ! 捨て猫みたいにおびえていた私を拾って、優しく包んでくれたのはあの人だけだったのよ…! 分かって!? 私が今もこうして笑うことが出来るのは、あの人が、私に「笑い方」を教えてくれたからなのよ……!
β
…………!!
α
お、オーケーオーケー。分かった。分かったからあまりニラむな。分かってる分かってる。
β
…ちゃんとやるように。
α
ええ、…ええ、それだからオデュッセウス、貴方に伝えておかねばならないことがあるのです。
β
おお、眼光輝くアテネよ、それは一体何なのだ。このオデュッセウスに語るべきこととは、一体。
α
貴方は何時如何なる時にでも諦めてはなりません。たとえ路銀が尽きようとも、貴方は貴方の旅路を急がねばなりません。それこそが貴方に科せられた運命なのであり、また貴方が選んだことでもあるのですから。
β
輝かしき矢の如き者よ、それならば貴女は心を休めてよい。私はそれをずっと前から覚悟しているのだから。
α
そう……。貴方の行く道は長く険しいものでしょうけれど、私はいつでも貴方を見守っています。貴方にアテネの祝福を。最後までハーバーマスを読み通せるように。
β
礼を言う、アテネ