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- β
- やあ……。
- α
- …………やあ。
- β
- やあ、大島永遠はおもしろいかい?
- α
- ああ。大島永遠はおもしろいよ。秀逸だと思うなあ。
- β
- …………。
- α
- ……ねえ。
- β
- なに。
- α
- …本題に入ったらどうだよ。
- β
- うん…、あ、いや、悪いのかと思って。
- α
- まあ。…こっちも分かってるからさ。
- β
- あー……、じゃあねえ、まあ、よくないと思うわけだよ。見るからにね?
- α
- うん。まあ、それはよく分かる。
- β
- というか、あーどうなのかなあ! その、ねえ。
- α
- なにさ。言ってよ。
- β
- うん。インド思想史のレジュメ、読み終わってないじゃないか。一体一日何をしていたんだっていう話だよ。ねえ。ほら、おれとしても心苦しいけれどもだ。
- α
- まあ…、あなたが心苦しいのはこちらとしてもよく分かっていてね? そりゃあ、そちらの気持ちも分からんではない、っつーか、うん。よく分かる。
- β
- …………。
- α
- やあね? あなたもよう知っているわけでしょ。おれって記憶系だめじゃん。
- β
- まあ。それは知ってる。
- α
- やる気湧かないのよね。
- β
- あん。…分かってる。
- α
- ほらさ? いろいろ理由はあると思うよ? 簡単な話なんじゃないのお、そういうのって。
- β
- うん。
- α
- 暗記系ってさ、別におれが覚える必要ないじゃん。
- β
- 辞書見れば書いてあるからねえ。
- α
- どこに何が書いてあって、で、それを見れば問題には答えられるわけだろ? で、なんでそれを覚える必要があるのかって話ですよ。
- β
- ……それで大島永遠読んでたって?
- α
- ばかりじゃない。六道神士も読んだし、福本伸行も読んだ。
- β
- 大島永遠は秀逸だったよな。
- α
- うん。ああいう絵柄でちゃんと下ネタで笑わせられるというのは希有だと思うわけだ。
- β
- それは同感だがね。
- α
- 今度新刊買ってこようかなあ。ねえ。
- β
- ねえ…。どうかねえ…。
- α
- そういやさあ、最近はベビースターラーメンに凝っていてさ。
- β
- なあ勉強を。
- α
- おれはみそ味が好きかなって思うんだけど、あそこのローソンたまに品切れなんだよな。
- β
- インド思想史をやった方が。
- α
- しおやチキンというよりはおれは断然みそだね。
- β
- レジュメを読んだ方がいいんじゃないか。
- α
- なあ。ちょっと黙っててくれないか。
- β
- 違うね、黙るのはおまえの方だ。
- α
- …………。
- β
- ……。
- α
- まあ待てよ。もうちょっと落ち着いてみようよ。時間は今一時だろ。
- β
- …………一時だよ。
- α
- 今一時なんだ。
- β
- ……。
- α
- それで、だから、今日は二限からだろ? だから、ここで活動できるのは十時までだ。
- β
- あと九時間だな。
- α
- そうだ。あと九時間だ。
- β
- …………どれくらいで終わるという目算なんだい。
- α
- まあ。……そうだな。
- β
- あとレジュメが三十分で読み終わるね。
- α
- まあ。それぐらいは簡単だろうね。
- β
- 次に問題を確認する。
- α
- それは時間を取らない。
- β
- そうして内容を細かく覚える。
- α
- 三時間だな。
- β
- 論述問題にはどれくらいかかる。
- α
- 三時間。
- β
- いや二時間半だ。
- α
- 今、総計は何時間だい。
- β
- …六時間。
- α
- 三時間残るね。身支度や、その他の生活に三十分ぐらい取るかね。
- β
- そんなもんかね。
- α
- しかし…、それはつらいぞう? 嫌じゃないか?
- β
- 嫌だが…。
- α
- 心苦しくて気持ちが悪いね。
- β
- ああ。気持ちが悪いけれども、だ。
- α
- そら、心理学があるじゃないか。忘れちゃいるまい。
- β
- 忘れてないよ。知ってる。
- α
- あれ、何時間で終わると思ってるんだ。
- β
- さあねえー、…まあ、一時間かな。
- α
- それは、「耐えられるのが」一時間じゃないか。そういう話じゃないでしょ。
- β
- 二時間。二時間だけやれれば終わる。
- α
- 本当かよ。
- β
- 本当じゃないかも知れないね。
- α
- 正直だ。
- β
- もちろん。
- α
- まあね。もちろん分かってた。
- β
- しかし…、どうかねえ、何でこんなに暗記科目が出来ないかねえ。
- α
- 昔からそうだったね。
- β
- 中学の時なんか、ほら、社会科の先生が”あたしの教え方が悪いのかしら”とか思ってたそうじゃないか。
- α
- 性向だねえ。
- β
- ヘクシス!
- α
- いやヘクシスはいいよ。
- β
- ともかくさ、身が入らないんだよな、暗記ってのは。
- α
- 昔からそうだったじゃないか。いつも足を引っ張るのは社会科だった。
- β
- 気分はこうだろ、「だって答えは教科書に書いてあるじゃないか」。
- α
- そうそう。「覚えなくても教科書に書いてあるなら、どうして覚えるんだ」。
- β
- 「おれが暗記に費やす時間と気力は、試験会場に教科書を持ち込むだけの労力と等価なんだ」。
- α
- 馬鹿げていると思っているね。そうだろう?
- β
- 正直に言ってしまえばね。
- α
- どれだけの知識を持っているかが問われる。
- β
- だが、その知識は教科書を買うだけの金額と等価なんだ。
- α
- 所詮は二千円やそこらのためにヒイヒイ言うと。
- β
- 狂ってるね。
- α
- よせよ。人が見ている。
- β
- 見ているから言ってやるのさ。
- α
- よくない性格だよ。
- β
- エーティケー!
- α
- いやエーティケーはいいよ。
- β
- …………まあ、それでも覚えるんですけどね。
- α
- …………まあね。覚えろと言われているからね。
- β
- それに、覚えないといけないとも思うから…。
- α
- しおらしいじゃないか。
- β
- たまには。
- α
- 「たまには」ねえ…。
- β
- まあ、「たまには」好きに思ったことを言わせてもらっても、あんまり罰は当たらないんじゃないかと思ってだね。
- α
- ブラックだねえ。
- β
- たまにはブラックにもなるよ。
- α
- もうちょっと、こう、巧く立ち回れないものかねえ。
- β
- 立ち回れるかも知れないね。
- α
- まあね。分かってるよ。そんな風にブラックに言っても大した問題にもなるまいと思ってるわけだ。
- β
- まあね。そう思ってる。
- α
- よくない。
- β
- よくないが、そうかね。そんなに悪いかね。
- α
- さあ。分からないけど。
- β
- うじうじしてんじゃなくてさ。
- α
- 分かってるよ。覚えりゃいいんだろ。
- β
- 覚えられるもんなら。
- α
- こりゃあ、自分に賭けて、強気には宣言できないことだね。
- β
- 知ってる。