前段
- β
- や、どうも、お久しぶりです。アキューオスさん。
- α
- ええ。お久しぶりでございます。バタイロスさん。
- β
- ……で、えー、何かあったようですね。
- α
- まあその、あなたも御存知のことと思いますが、お金が消え失せてしまいまして。
- β
- あの話ですか。あのあと、どうなったんです?
- α
- ええ。まあ結局見つかっておりませんで。
- β
- 見つかりませんか。
- α
- ……と、言いますか。
- β
- ……。
- α
- 少々、今日は交番に行こうと思っているんです。
- β
- 交番……というと、それはあれですか。もしかして、空き巣……。
- α
- え? あはは、やですねえ、そんなこと言わないでくださいよ。
- β
- ああ、いやいやこれは失礼。で、どうしたんです?
- α
- まあ、その、思わず笑ってしまう話なんですが、ええ、どうも、窓が開いていたんですね。
- β
- へえ。
- α
- いやつまりその、探しても見つからない、窓を閉め忘れていた、と来れば、その……、「空き巣」って言うんですか? その――まあ第三者の介入があったんではないかと、知らないうちにですね? まあそういう風に考えるのが……。
- β
- ……妥当であろうと。
- α
- ええ。まあ大方そういう次第でして。
- β
- …………。
- α
- …………。
- β
- …………。
- α
- …………。
- β
- ……えっ?
- α
- はっ?
- β
- ――――結局、空き巣ですか?
- α
- いやまさか! そんなわけないじゃないですか。ええきっと部屋のどこかにはあるんですがね、仲々見つからないものだから、ええ、まだ私は探す気でいるんですがね? ええその、まあ被害届を出しておいて損はないだろうと、ということなんです。よ。
- β
- ……はあ。
- α
- ……ええ。そうなんです。
- β
- …………でも、動かしたはずのないスピーカーの位置が、変わってたんでしょ。それも開いていた窓のすぐ下の。
- α
- ……………………。
- β
- ずらして足場を作ったと考えられないんですか。
- α
- ……………………いやその。
- β
- …………。
- α
- …………。
- β
- …………。
- α
- なんでそういうこと言うかな。
- β
- …………。
- α
- …………。
- β
- じゃあ行ってらっしゃい。
- α
- ちゃんと帰ってくるよ。
- β
- ちゃんと帰ってくるんだよ。