• あの日、おれはちょっと浮いた金を持っていた。どうしてそんなものがあったのかは覚えて居ないが、まあ、ともかく或る程度まとまった金で、しかもおれの自由になる金を持っていた。そうしたら、手を出してみたくなるのが人情ってもんじゃないか。だから、おれは考えた。どちらにすべきか。一方は他方の、まあ約 1.5 倍といったところか。高い方を買ったら、当分それに付きっきりにならないと金を出した分に見合わないだろう。高い金を出すんだからその分使い倒さなきゃだろ。だから――というわけではないけれどね、まあおれは安い方を買ったのだ。このくらいだったら稀に本屋で一度に使うこともあるさ。それだったら、いいじゃないか、ちょっとほったらかしになっても。そう思って買った。買ったのは『RPGツクール VX』。買わなかったのは、何を隠そう『初音ミク』である。