• 私が初めて進学した大学は都会にあったが、今の学校は田舎にある。田舎と言っておかしければ、住宅地の中にある。少なくとも私の家から学校の入口までは住宅地だ。この静けさは、かつて一度だけ行ったことのあるさいぽんの大学を思い出させる。あれは、まだ私が剣道をやっていた頃だから、中学生だった頃のことだ。暗い内にバスに乗り込むよう仕向けられて、まだ暗い内に大学の構内に降りた。そこは、砂利の敷かれた体育館前の空間だった。私たちは、いや、少なくとも私は、まだ寒くて眠い内から剣道着を支度して、訳も分からないうちに「稽古」に参加した。のちに私たちの校は地区大会に負け、顧問の教諭が、大会の直前に大学生と稽古させるだなんて自分のチーム管理はなってなかったと、チームの我々に詫びた。何と空々しい! と、今ならば怒りを以て振り返ることも出来ようが、当時は素直に感心したものだった。いや、それも嘘か。私には我々の校が勝つかどうかなど、全くの些事であった。ただ、その教諭の演技に感化された愚かな同輩一名が、ために息巻くのを予想して暗澹たる気持ちに沈むばかりであった。だが、私が今通う大学は明るい。私たちの研究棟の隣には体育館が立てられており、今年になってもまだ竹刀の音を響かせている。彼らを冷やかしてやりたい。いや、だが、一体何の得になるだろう。それどころか殴られるのではないか。