一週間とサイン会

  • まずは、先週の水曜日のことだな。この水曜日という日には、おれは卒論の演習があるわけだが、これを書くために、十月三十一日火曜日の夕方六時頃から起きていたような気がする。そうして書き続けて、水曜日、午後四時頃から卒論演習。これが、なかなか良い手応えであった。そのように言おうと思う。だから、僕は、どうにかなってしまったのかも知れなかった。
  • だからその授業のあと、おれは部室に行った。その日はどう考えてもステーキを食うようなテンションだった。なんて言うかおれとしてはたった今「少女秘封倶楽部」を聞きながら《三田誠レンタルマギカ 魔法使いの運命!』isbn:4044249091*1をちらちら見てみたりなんかしながらしているわけなのだけれど、おれは部室に行ったのだった。そうして電話をした。たしかそうした電話は仲々繋がらなかったと思ったのだけれど、すぐに部室のドアが開き、まいたけが現れた。こやつは予知能力でもあるのかと半ばマジで疑ったが、多分それは単なる予測だったのだろう。そうしてさらにたたまでもが現れた! ので、あれこれと話をしておれは店に頼んでいたものを取りに行く。この店は午後七時半で閉まってしまうから、うだうだしているとうっかりということになってしまうのだ。おれはその店に赴き、頼んでいたものをゲット。詳しく書くことが出来ないのが悔やまれるがまあそれはいいということにしておこう。そうして部室に戻ってきてたたから借りていたものを返却。そしてさらにたたはそれをまた別な人に渡しにいったようだった。そうしてそのまま部室で話をして、そろそろ、ということで部屋をあとにする。おれはもう、滅法にステーキハウスをプッシュ。まいたけはどうやら既に飯を食ってしまっていたらしく、最後まで渋っていたが、たたがステーキに賛意を示した辺りから折れ始めていった。そうして結局ステーキハウスへ。おれは250グラムのステーキを選び、たたも同様にした。まいたけは、んー、おれは注文しないよー、と言ってシャーベットを選んだ。
  • このステーキのあとが特筆に値する。もはやおれは徹夜で何かをするつもりだったので、色々なことを考えてゆく。始めは、まいたけの家で何かをすることを考え、次にはおれの家に引き込んで何かをすることを考えた。そうして、まいたけが最終的な案を提出する。「じゃあmanthano君がパソコン持っておれんちに来ればいいじゃない」。それだ。それしかない。部室でサイトからダウンロードした永夜抄花映塚をやって東方-対戦熱が吹き上がっていたおれたちには、その提案は決定案として響いた。そういうわけで、おれは自分の家に一旦帰ることになった。それにたたが付いてきてくれた。おれんちを見るというのもあっただろう。そのあいだにまいたけは自分の部屋を片付ける、ということになったのだと思う。そうして午後十一時半過ぎ、おれたちはまたしても学校の周辺に集まり、夜宴を開始した。
  • 始めに、某装置の起動実験をする。これが程なくして完遂されると、私たちは花映塚を始めた。そうして萃夢想へ。おれはひとり暮らしだからコントローラーパッドは一つしか持っていない。しかし、それはまいたけも同じだった。そうなのだから、おれが自分の部屋からコントローラーを持ってくれば二つが揃うのは必定、白と黒のコントローラーを握りしめて、おれたちはがががっがががっがっがががと対戦した。パチュリーでシューティングしたり、妖夢で一人だけ格ゲーしてみたり、霊夢で連射しながら巫女サマーかましたりする。ノーモーションでゆかりんが薙ぎ払ってみたり、美鈴の泣き顔を楽しんだりして、たたの咲夜さんが降臨したりした。おれたちは叫びながら殴り合っていた。
  • 午前四時半から五時頃になって体力的な限界に至った。まいたけとたたは寝落ちした。だがおれは眠る気になれず、一人で妖々夢を起動、咲夜さんでノーコンクリアに挑む。もう目が疲れていて瞬きが長くなってくる。だが、しかし、おれはここで果たす。おれは、どうかな、なんとかなるかな、と思いながら、幽々子に渾身の投げナイフを打ち込みまくり、ついにおれは果たす、Normalノーコンクリア。――だがしかし、処理落ち率が13%を記録。もう、おれもパソコンも疲弊していたのだ。くっふう…、疲れたおれにはこの程度が精一杯か…。そう思いながら寝ているたたを叩き、「やったよ! おれやったよ! クリアしたよ! 妖々夢!」と言うが、たたは「ううーん。あと三十分……」としか返してくれなかった。
  • 二人が全く起きる気配がないあいだ、おれはまいたけのエロ本を物色してみたりしながら、結局片山まさゆきの漫画を読んでいた。そうしているといきなりローゼンメイデンが歌い出した! だがおれはこれをよく知っている。これは、まいたけの携帯の目覚ましだ。こやつはプライベートでもこんな設定にしているのか……と関心して、まいたけを起こさずに放置した。やがて三回目のローゼンメイデンが鳴り響き、起きているおれがそれにびっくりしている状況に違和感を覚えたため、まいたけを起こす。彼はこの木曜日に、午前十一時からバイトがあると言っていた。そうして時間は大体九時。まいたけはようやく目を覚ました。たたもそうする頃には起き出し、なにやらネガティブな寝言らしきものを言っていたがとりあえずスルーした。たたにはこの木曜日の午後四時だか六時頃から、部室で会合があるということだった。そうしたところへさらに某人が現れ、そろそろおれにも眠気がやってきた。
  • まいたけはバイトに行き、おれとたたは再び部室へ。某人は帰った。はずだったが部室にいた。そうしておれは完璧に意識の闇の中に落ち込んでいき、時たま聞こえるたたが文花帖をやって奇声を上げるのを耳に、ひたすら眠り続けた。そうして起きたのは夕方六時過ぎ。窓の向こうは最早暗くなっており、「今……、何時よ」とおれは聞く。三人が答えたように聞こえたがそれは二人だった――。そうしておれは目を覚ます。
  • だが、ここから五時間ぐらいの記憶がない。
  • 思い出した。たたたちの作業を見ながら、プリントしたノミックのルールを読んでみたりした。のだ。が、やっぱりそこから先が思い出せない。多分――あ思い出した。午後九時十分頃までみんなが作業するのを見ながら邪魔したりして、一人でオトに行ったんだ。というのもそこは午後九時半で閉まってしまうから。それで、おれが食い終わる頃、みんなの作業も終わり、おれとたたがまいたけの部屋から持って来てしまっていた白いコントローラーを、おれがたたに部室からついでに持ち出してきてもらい、受け取ったんだ。でも受け取ったあとも、二人でまいたけの部屋のポストへいき、何とか不安定ながらもコントローラーを彼が回収できるように置いてきたのだった。ポストからコントローラーがニョッキシでている様を、たたは携帯で撮影していた。そうしておれたちは本屋へ行き、帰ったのだった。
  • そうしてこの紫本の記述によれば、次の金曜日になった辺りで寝て、午前七時半に起きたのだった。そうしてひたすらTouhou Wikiを見て、誤訳を発見し、寝た。
  • しかし、度々電話がかかってきたことをおれは覚えている。それはたたからだった。たしか、午後一時からなにがしかの作業が部室であり、おれもその作業に来るんだよというものが一つ。それから、午後四時二十分頃に、純粋理性批判の読書会に来ないのかよというのが二つ目だった。と思う。おれはこの読書会はてっきり六時からだと思っていたから、四時半頃に起きて予習しようと思っていた。なのに、四時二十分からだと言う。ううーん。それじゃあ行くよう。ということで、本を読みながら部室の方へ向かう。途中、illelgaから電話があり、場所はどこかな? と聞かれる。うん。僕は学生会館だと思うよ、と答えたが、まあ要するにおれもまだ精確な場所を知らなかったのだ。そういうわけで、おれが部室に着いたのは、確か午後五時になるかならないかぐらいだったと思う。それから場所を移し、読書会を開始。終わったのは午後七時半ぐらいだったと思いますがあってますでしょうか。
  • そうして少しだけ部室でうだうだしたのちに部屋を出、ステーキハウスへ。だが、どうもみんながステーキハウスに乗り気ではなく、離反の気配が見える。そうすると弱気なおれは行き先を変更し、大きな駅の方の楽しいお店に行く。ここで二時間ぐらい食事をして話をしたあと、……そう、このあとが、僕にとっては大きな意味を持つのだった。
  • おれとまいたけと、火星から北と、そして電話で呼んで来てもらった抜け毛とで、麻雀を開始した。日付が替わって十一月四日の土曜日、午前一時頃から、おれたちはまたも対戦を始めた。東風戦を二十回。途中で抜け毛が寝落ちし、ラーメンとカレーを注文し、いろいろなことがあった。が、主に麻雀がそこにはあった。おれたちはひたすら戦い続け、午後一時になった辺りで店を出た。そうしておれはスタンプを三つ集め、五千円の図書券にまた一歩近づいた。
  • そうして今までおれたちが行こうと思ってもいつも閉まっていたつけめんやに行ってみることにする。この日は真っ昼間であることもあってちゃんと開いていた。おれはかすかな喜びを感じながら、辛味つけめんの大盛りをチョイスする。その店はまいたけが「なんか陽気な工場みたいだなあ」と感想したように、かなり回転が速く、十人弱が並んでいたにも拘わらず、ストレスなく席に座ることが出来た。そして「松屋並み」(まいたけ評)の早さで注文が出てきた。そうしておれたちはその麺をすする。そしてまたしてもまいたけが表現してくれた。「あー、腹が麺まみれに」。その通りなのだ。あの麺は、それはたしかにおれが大盛りを注文したからだろうが、多かった。おれたち、というか主に大盛りを注文したおれは、腹を麺で一杯にしたのだ。それはもう、ぐるぐるする程に。
  • そうしておれたちは店を出て、さらに大きな本屋に行くことにした。さあ、この辺のことを書くと色々ばれそうだが仕方あるまい、要するにその本屋は高田馬場の芳林堂だった。おれたちは漫画が売っている五階へ行く。しかし、おれは或る違和感を覚えた。白い、布の、掛かったテーブルがある。この公式感。なんだ。途端、おれは記憶の稲妻にシュートされた! 今日は、ととねみぎのサイン会だ!!! おれは全くもってウッカリしていた。「伯爵うっかり」ぐらいのインパクトが、おれには感ぜられた。サイン会は二時からだ。そして時計は見ていないが、どう考えてもそれっぽい時間だ。おれは……おれは……。三人にこっそり耳打ちをする。「……今日、ととねみぎが来るんだよ……」。そうしておれはその整理券を持っている。だが、持って来てはいない。だから、持ってこなければならない。だから――おれは三人に別れを告げて、速攻で家に向かって猛然たるダッシュを試みていた。とりあえずあの駅まで。
  • 十二時間を超える麻雀の結果、おれの服や体は煙草の匂いを放ち始めていた。というかどう考えてもおれはシャワーを浴びるなりなんなりしたい体勢だったが、そんな時間はない。部屋に着き、急いで『0からはじめましょう』の一巻を手に取り、整理券が挟まっていることを確認する。そしてペンを持って電車に飛び乗る。席にも座らずに整理券の裏に先生への応援メッセージを筆記!

先生の絵柄は、どうしたらいいのかわからないほど、
僕の心を射抜きます。
お体に気をつけて、ご活躍下さい。

  • おれはおれの本心を叩き付けた。また、名前欄にどういった名前を書こうかと暫し考えたが、おとなしく戸籍名にしておいた。manthanoにしようかと思ったが、それは圧倒的にWeb上でネタにするんだろうなと察せられてしまうからだ。まあもちろんおれは電車の中で既に、これをネタにしようと思っていたが、そのためにはおとなしくする必要があると思ったのだ。きららの創刊二号から先生の作品は全部見ていますということも書こうかと思ったが、だがそんなことはいいやと思ったのだ。ともかく、おれは氏の絵柄に萌え転がっているのだから。
  • 再び高田馬場の芳林堂に現れたおれは、階段に向かう。そこには芳林堂の店員がいて、「ととねみぎ先生 サイン会 最後尾」のような立て看板を持っていた。そしておれはその店員さんに聞く。「えーとー、整理券を持っているんですが、ここでしょうか」。その整理券を見せながら聞く。おれの整理券番号は33。それはもっと上の方だと教えられる。こういったことを書くと芳文社側におれが特定されうることになりそうだがそれはまあいいということにする。ともかくおれは階段を上っていった。確かサイン会は先着二百名だったはず。それならば、おれの並ぶべき場所はもっと上だろう。
  • そうしておれは然るべき位置を得た。前後の人の整理券番号を聞き、おれは33番が並ぶべき場所に並ぶことが出来た。すると頭からダラダラと汗が噴き出してきた。実に久しぶりに全速力で走ったからだった。そうしてまいたけに電話を掛ける。おれが四階と三階のあいだの階段にいることを告げると、丁度彼らとは行き違いになっており、エレベーターを降りたところだと言う。彼らはそのまま帰るが、今度ととねみぎさんの絵を見せてね、ということを言われた。ああ。そうだね。絵も、描いてもらえるんだろうなあ。そう思っていると、別な店員さんが階段の上の方から降りてきた。「先生に漫画のキャラクターを描いてもらえるそうですので、整理券の裏にキャラクター名を書いてくださいー」と言う。そうなのか。やはり描いてもらえるのか。ああ、おれはコミケ*2の経験がないことを恥じる。おそらくこういうことは、おれの前後に並んでいる勇ましき方々にとってはありふれた事柄なのだろう。店員さんが通り過ぎていって、下の方の客が声を上げる。「あのー、それってこの漫画限定ですかー?」。店員がそれに答える。「この漫画の発売を記念してのサイン会ですから、そういったことはまずいかも知れません。――ですので先生に聞いてみてください」のようなことを言った。そ……、そうなのか――。おれはますます恥じ入る。そういうものなのか――。これが臨場するということ、全き事実の世界。おれは自分の視野・経験が狭窄であったことを痛感し、整理券の裏に次のように書いた。

東屋ことり

  • だがこれは、本心ではなかった。本当のおれは、圧倒的にお母さんやポチ子さんにハアハアなんだが、ここはスタンダードを追い求める心が邪魔してしまったのだ。だが、おれは、自分の初心者っぷりをその初心者性によって許すことにする。さあ、そうしておれたちは少しずつ階段を上っていく。出口は漫画売り場の五階、あのテーブルの近辺だ。おれは、その五階が近づいたとき、自分が緊張していることを知った。そうなのだ。そのテーブルにはととねみぎさんが座っているのだ。落ち着けおれ。
  • おれは半ば無心で、階段を上る。というかついさっきまでのどかに麻雀をしていたはずなんだが一体何だこの緊張感は。そうしてとうとう五階に到着、氏の背中を確認する。脇には背広の紳士が立っており、おれは推測をする。この人物は――社の人か。ここ「社」は「芳文社」を指す。氏はサインをしている。芳林堂の店員さんが、順番になった客から単行本と整理券を受け取り、それを軽くチェックして社の人に渡している。そしてその整理券裏のメッセージを吟味して、氏の脇に置いているらしい。と、いうことはあれだ。もしもそのメッセージが悪意あるものであればそういった機構によって跳ねられ、なんらかの懲罰が加えられるのだ。おれは不意に身を堅くしたが、そんなことは起こるはずもなかろう。おれのメッセージは本心過ぎたかも知れないが――そんなことにはならないはずだ。おれは、なんと心が弱いのだろう。またも恥じ入った。
  • そんなような感じでおれはサインをしてもらう。似顔絵に――やっぱり似ている気がする――。そんなことを思いながら、アウグスティヌスの『告白』を思い出していた。確かその本に登場した人物のことだった。彼の思想が、その右腕のペンから流れ出るように――。おれは氏が東屋ことりを描く様を――よく見ていた。
  • 昨日からの徹夜も相まって、軽く恐慌に達したおれは、階段を下りて家路につく。途中、階段に並んでいる人が花束を持っているのにまたしても驚愕せしめられながら。そうして、土曜日の日記には次のように書いたのだった。

「何をどのように語って好いのか分からないけれど、そしてどれをどのように考えればよいのか分からないけれど、それでも何とかして考えねばならないことだからこれをこうしてこのように語ってみようとする」などと、いつも書いてきたし今日も書こうと思ったが、いつもいつもこんな調子だと固定した書き出しみたいで我ながらどうかと思ったのだ。が、なんて言うかもうどうでもいい気がしてきたのでこんな調子でいく。
それというのもやはり今回感得したのはなんと世界の広いことか、ということであって、世界がものと出来事との複合体であるなら、おれはそのほんの一部分しか知らなかったのであり、それでもおれが知らなかったことに出会ったおれはそのことに驚愕と困惑をしつつも確かな憧憬と畏敬とを抱いたからなのだ。物事は順序を追って話すべきだ。しかしときに物事は順序通りに並ばない。それがこれであり、この度の事柄なのだった。私は何から話すべきだろうか。とりあえず風呂に入って本を買ってきてから書こうと思う。書けたら。寝てしまうかも知れないけれど。

  • 結局おれは湯船に入って『神界のフィールドワーク』を買ってきて、寝てしまった。おれは、まことに、知っている世界が狭い人間だったのだ。おれは、なんと言ってもあのサイン会に大きな衝撃を受けてきた。ああいうことなのだ。福本伸行は、「案外、そこに座っているのもまた人間かも知れない」というようなことを書いていたと思ったが*3、氏もまた人間であった。今までは漫画を通じてしか知ることの出来ない世界であったが、おれは、あの日、そうした人と会った。「会った」のでなければ、「見てきた」。作品が自然に出来上がったのでなければ、そこには作者がいるのだ。なにか、おれには新しいものが見えた気がした。ドラマチックだった。*4

*1:第五巻。

*2:コミックマーケット

*3:銀と金』。

*4:だが何が一番恥ずかしいって、こういうことを書いてることが一番恥ずかしい、と知っていながらまあいいかと思ってこれを書く。