風華チルヲの話

  • 以前買った『ドージンワーク』のアンソロジー本が読み差したままだったので続きを読むことにした。ら、少々思考が沸いてきたので書いてみることにする。ので、ちょっと恥ずかしいので見たい人だけ見て下さい。あんまり見ないで下さい。
  • 風華チルヲは、芸風を確立したのじゃないだろうか。そういう風におれは思うね。いつもながらのハァハァ漫画だが、さてだから、性的な変態がいさえすればそこは風華チルヲにとってはホームグラウンドであり、その独特の、少々古めな、だが完全にいっちゃってる雰囲気の絶叫で、そんなばかなことばかりを言って遣っているわけだ。そうなんだな、だから風華チルヲは変態がいればいいんだ。「バーカバーカ!! あれは今流行のツンデレって奴よ!!」「なッ――――なんだって!?」というやりとりとか、どうかと思うんだけど、どうかと思うんだけどさ、そんな流れを心地よくさせるわざを……、風華チルヲは持っておる……。持っておるのじゃ。
  • それにしても風華チルヲの漫画にはたまに言動の一貫しない人物が出るように思うね。この漫画で言えば純一郎がそれで、兄に対する攻めと引きの基準がもの凄く不明だ。一頁目の「なッ――――なんだって!?」で思いっきり兄の妄想にノリノリになるんだが、その直後に、「失敬な奴だな? 考えても見ろ/強力なお仕置きの後にはその分甘いごほうびが待っていると相場が決まっているものさ――」「ちょ――兄さん それ何のプレイ!?」で、一気に冷める。……ようにおれは思ったんだが、もしかしてこれは兄の妄想にまだ乗っかっている発言なのか? いや、そここそが風華チルヲの漫画のたえであるに違いない。狂人の発言にノリノリになって一緒に弾けるようなやりとりは、そこかしこで目にする。ごめんなさい、よく目にする生活をしています、僕*1。で、その一方で、そういうノリノリな狂人に片っ端から冷めた目線で突っ込みを入れていくやりとりもよく見る。風華チルヲはそうじゃない。いや、多分純一郎はまた別の意味で狂っており、なじみが好きすぎる余りに自分に都合のよい妄想ばかりを幻視してやまない兄とは別に、純一郎は純一郎で、自分の目指す理想像に向って邁進しているのであり、むしろこの二人は実は話が噛み合っていない。本棚に頭をぶつけて妄想を加速させた兄に倣って、おそるおそる頭を同じようにぶつけに行く純一郎は、必ずしも自分の境遇は恵まれたものではないと自覚しながらもなじみが好きすぎる余りに前が見えなくなっており、言わば自分に都合のよいように環境を解釈してゆく兄とは対照的に、純一郎は、自分はよく分かってますよ的なそういった自分のスタンスに溺れていて、前が見えていない。そして純一郎と同じく、望みはなじみに罵られながら踏まれることなのだ。兄はただの変態だが、純一郎はただの変態ではない。事実、時々兄の妄想のどの辺りが妄想なのかが分かっていながら、時々その兄に都合のよい妄想が自分に不都合である場合にはそれに易々と同調して批判する。もの凄く不自然に見えるのは、純一郎は兄のどのような妄想に同調するのかが見えてこないということだ。例えば、先程のシーンでも、「失敬な奴だな? 考えても見ろ/強力なお仕置きの後にはその分甘いごほうびが待っていると相場が決まっているものさ――」「そ、そんな美味しい話が――!!」……でもよいはずなのであり、何故この兄の発言が純一郎に許諾されなかったかが、全く分からない。だから、純一郎は、並の人間とは全く違う思考法を持つ変態なのであり、一部並の人間にも理解可能なことを言いながら、たまに並の人間たる読者の予想を全く裏切る受け答えをするから、奇異であり、分かりやすい変態の兄とは違って、ただの変態ではない、もう少しヤバい種類の変態なのだ。読者は、というか、おれにはこの登場人物の思考法が理解できないわけだ。
  • 風華チルヲの漫画にはこの手の、思考法が常人には理解できない、という類の変態がよく登場するように思う。というか、みんなそうなんじゃないか? この人の作品の登場人物は。特に調べないけど、主人公のマザコンの男子もそのがあり、日常的な文脈での会話は理解できるんだが、マザコンに由来すると思われる変質的な変態トークでは、たまに、どうしてそんな発言が出てくるのか分からないことがある。もしかして、風華チルヲは、僕が知っている中で最もよく狂人を知る人間なのではないだろうか。僕は狂人をよく知らないけれど、もしも個人的な思考法が突飛すぎる余りについていけない人物がいたとしたら、多分、こんな感じだろう。
  • それに比べれば、『ネウロ』に登場する狂人は、そんなでもない気がするわね。なにしろ、ああそういう執着があったのね、と僕らは理解できるから。彼らはまだどこかでこちら側の世界と繋がっていて、その、犯罪に至った思考の経路を話されたときにも、まあなんだかそんな理由で犯罪されちゃたまんないぜってなものであって、これが風華チルヲだったらどうなるだろうか。それを少し考えてみようか。
  • いま、風華チルヲさんのサイトを見てきた……。こういうのを何て言うのか忘れちゃったけど……、ゴスロリって言うんですか、ビジュアル系って言うんですか、その、なんていうか、この御仁もただの変態では無さそうだ。さすがだ。

*1:漫画を読んでいるとよく出くわすという意味ですよ。