ニコニ広告が良く理解できないので理解しよう

  • 「ニコニ広告」という機能が始まったわけなのだけれど、これ、大分相当革新的なことをしようとしていると見えるのだけれど、今一機能がうまく理解できないので、近々何かを書くかも知れませんな。これは多分相当に凄いことなので、ちゃんと理解したいと思う。
  • 少しだけ言うと、まず、なんだか「広告」という言葉の遣い方が普通じゃないと思う。だって、自分が投稿したわけでもない動画を、宣伝するというのだろう? それも、特定企業と特に関わりのない個人が。なんで、そんなことをするんだろう。と言いますか、なんで多くのユーザーがそういうことをしたいと思っている、と、運営は思ったのだろうか。自分が投稿した動画に金を使って宣伝をするというのは、分かる。それから、自社のアニメ作品が流用された MAD に金を使って宣伝をするというのは、これも分かる。でも、なんで、そうした「直接の利害」*1 がなさそうに見える人たちが、宣伝したいと思うと思うのだろうか。それがもしも、その当該の動画が余りにも凄すぎて、自分以外のユーザーにもこの動画を見て貰いたいという動機から来るのだとしたら、それは凄いことで、そのときそのユーザーはその作品に対して本当に金を払っている。(ところで宣伝のために払われた金が、どこに行くのかは、実はちゃんと書かれていないのではないですか? 運営に行くの? かな? *2
  • それから、さて、こういう風に実際の貨幣とリンクのあるポイントが、ニコニコ動画に導入されたわけなのだけれど、ではこれは悪いことなのだろうか。悪いと感じる人がいそうだ。例えばこれからは動画作りが金の為に行われるかも知れないから、と言って。でもとりあえず動画作者には金が行かないようなのだから(ですよねえ)、幾ら良い動画を作っても自分には金銭として利益がやってこないという事実は変わっていないでしょう。では、それでも実際の金銭とリンクを持つことは、ニコニコ動画を「歪めて」しまうと考えるべきだろうだろうか。良く分からない。一般ユーザーによって宣伝されるということは、実際にそうしたユーザーたちが金銭的なものを掛けてその動画を賞賛したということなのだから、もしかしたらそうした宣伝を集める動画の方が、そうでない動画よりも、より良い動画として見做されるようになるかも知れない。では、動画作者たちはより多くの宣伝を集められるような動画を作るようになるかも知れない。それって、ニコニ広告がなかった頃から、何かが歪んでしまっているのだろうか。そうでもないんじゃないかな。これまではより多くの再生数と、コメント数と、マイリスト数を稼げるような動画を作ろうとしてきた、と思われているのでしょう。そちらが許されるのに、どうしてより多くの宣伝を集めるような動画を作ることが悪くなるのだろう。宣伝をするということは、金を掛けてその動画を誉めるということなのではないか。これまでは、金を掛けてその動画を誉めることは出来なかった。出来ることは、より多く再生を繰り返し、より多くのコメントを書き、マイリストに入れるということだけで、そうすることでしか、その動画を誉めることが出来なかった。(ここではその動画を誉めるようなコメントを書くという方法、及び、ニコニコ動画の外のブログ等でその動画を誉めるという方法を度外視している。)現在のニコニ広告は、まだ、その動画を誉めるための一手段でしかないと思う。但し、それは、金を掛けて行われることなので、その他の方法よりも、誉め方として程度が高いのかも知れない。
  • あれ? じゃ、そんなに革新的じゃないのかな。うーん。もしかしたら、これはユーザーに「誉め方」の一つを提供しただけかも知れない。たしかに、今までは身銭を切って誉めることが出来なかったのが、これからはそれが出来るようになったので、そういう点では革新があったかも知れない。でも、それは動画作者の動機に影響を与えるものではないだろう。どのような動画が賞賛を集めるか、という点では今までと変わりないだろう。変化があったのは、賞賛したいと思う動画に対する、その賛意の示し方が増えた、という点なのだから。
  • でも、これは動画作者・視聴者の側では大きな変革ではなかったかも知れないが、運営側にとっては大きな変革であったのかも知れない(ここでは宣伝に使われた金は運営に行くものと考えている)。というのも、これは、ユーザーたちの「誉めたい」と思う気持ちを利用して金銭を稼ぐ方法であるから。これまでにも、たしかにユーザーが運営に金を払う方法はあった。それはプレミアム会員になるという方法である。けれど、これは、ユーザーの「(より快適に)見たい」という気持ち(ニーズ)を利用したものだった。収益を上げるための経路としてのプレミアム会員と、今回のニコニ広告との相違点は、次のようになるであろうか。
    • まず、(i) プレミアム会員というのは固定的な収入源であるかも知れない。プレミアム会員というのはそうちょくちょくなったりやめたりするものではないだろう。それに比べて、ニコニ広告というのは、人が誉めたいと思う動画が多ければそれだけ収益が上がり、少なければ収益も下がるというものだろう。いや、勿論見たい動画が少ないならプレミアム会員も増えないと思うけどさ、どういうときに収益が上がり・下がるのか、という条件には、もう少し細かく考えれば差異があるでしょう。例えば、プレミアム会員と非プレミアム会員とで運営が設けている差別を本当に乗り越えたいと思うときに、ユーザーはプレミアム会員になるのでしょう。例えば大きな容量の動画を投稿しようとするときに。だから、非プレミアム会員のままでは不都合だ、という局面に至って初めて、ユーザーはプレミアム会員になるのだろう。けれど、ニコニ広告はそうではなくて、素晴らしい動画に出会ったときに金を払おうとするのだろう(いや、本来ね。今は導入されたばかりだから皆遊んでいるのだと思うけれど)。だから、ただ素晴らしい動画が出るだけで、収益になりうる。このとき運営は何もしていない。強いて言えばそうした動画が登場する土壌を作っただけだろう。それと比べて、ユーザーをプレミアム会員にする為には、運営はプレミアム会員を優遇しなければならない。ここが、異なるんじゃないのか。
    • 次に、(ii) ニコニ広告の方が、権利保有者に対してアピールが強いのだと思う。どのような動画に対して一般のユーザーたちが金を払っているのか、ということは、どういう動画が購買に結びつきうるかということを調べる上で参考になるだろう。少なくとも、これまでのような単なる再生数や、コメント数、マイリスト数のような尺度を使うよりは良いだろう。それは、後三者がユーザーの自腹と関連していないから、そうなのだと思う。宣伝されている動画というのは、そのユーザーにとって、ただ再生するだけでなく、ただコメントを書くだけでなく、自分の金を使って宣伝したいほど、興味を惹くものなのだ。だったら、どのような動画に、金銭的価値が有るだろうか、と考えるときの参考になる、というのは自然な発想ではないか。こうした点には、プレミアム会員という制度は殆ど関係しない。それは、プレミアム会員の数というのは、寧ろどれだけニコニコ動画が必要とされているか、ということを示唆するだろうからだ。プレミアム会員になるのは、個々の動画が素晴らしいから、というのではなくて、ニコニコ動画自体がそのユーザーにとって大切だからだろう。
    • (iii) そして、この点がおれにとっては一番興味深く思われることなのだが、(ii) と同様、宣伝が個々の動画に対しての評価であると考えると、ニコニコ動画の運営にとってどの動画が価値あるものなのかがより明確に決めることが出来るようになるのだと思う。こうすると中々面白いことになると思うのだ。運営がユーザーによる宣伝から利益を得るのだとすると、それは、そこで宣伝された個々の動画がニコニコ動画上にあるからなのだ。ということは、そうした、運営に利益を齎す動画を簡単には消すことが出来ないようになるのではないか。だから、こうだ。明らかに、社会的に、或いは法的にマズイ動画なんだけれども、ユーザーたちが余りにも宣伝しまくってくれるから、運営はそれを消すに消せない、という事態が生じるのではないか。ここで「法的」と言っているときの「法」というのは、主に著作権法のことだ。もう言ってしまえば、ニコニコ動画の運営が、我々の代わりに企業に著作の使用料を払ってくれるかも知れない。自社のコンテンツに由来する動画の削除を求めてくる企業があり、そうした動画がアップロードされたとする。しかし、ユーザーたちがその動画を宣伝しまくったら、運営がその企業と提携をして、その動画を消さずに済むようにしてくれるかも知れない。そのときの提携に使われる運営の資金は、我々ユーザーが出したものだ。だが、我々ユーザー一人一人の負担は実に微々たるものだ。これが凄い。まさに、なんちゅうか、所謂民意の力みたいなものが起こるのではないか。勿論ここで問題になっている頑固な企業ばかりではないから、運営が提携しなければならない企業は多くないと考えておこう。それでも、我々ユーザーは素晴らしい動画に対して宣伝をする。これは、とりあえずは、頑固な会社に由来する動画を見るための活動とは別の所で常に起こる活動だ。そうして運営はそこで得た利益を、更なるコンテンツの拡充(ニコニコ動画内に存在することの出来る動画の種類を増やす為に提携をすること)に宛てることが出来る。これは中々に革新的で、面白いことだ。(プレミアム会員という制度との対比は、もうここでは省略してしまっていいだろう。)
      • いやあ、勿論こうしたことを実際にどういう形で行うかということにはまだまだ問題・障害があるとしてだよ? その会社に由来する動画が必ず安定して運営に収益を齎してくれないのであったら、運営はその会社と提携することはないだろう。だから、単にユーザーたちの宣伝が集まるというだけでは駄目で、更にどういう条件が満たされたら、提携することが運営にとって益になるのか、ということをもっと詳しく定式化しなければならないだろう。そりゃそうだ。けれど、重要なのは、今や運営はそうした戦略を検討することが出来る、ということなんだ。これまでは、特定の会社と提携することが本当に運営側にとって利益になるのかどうか、ということを検討することにはそれほどの甲斐はなかったのではないか。これからは、それが有意味に検討されうるだろう、と言うのだ。やべえ。こりゃすげえぜ。
  • ついにユーザーが動画に、いや厳密にはその動画をいつでも誰でも見られるように保持していてくれる運営団体に、金を払うようになったのだ。これは、様々な帰結を産むだろう。これは実に興味深くて、面白そうなことじゃないか。
  • というわけで、近々書くのでなくて、そのまま書いてしまったね。
  • ところで宣伝のために使った金は運営に行く、というようなことを書いていたけれど、そもそも宣伝に使うニコニコポイントというのは、運営に金を払って手に入れるものだから、始めからそれは運営のものだったのだね。まあいいや。そのニコニコポイントを入手する目的が宣伝に使うためであるなら、それはさほど問題にならないだろう。
  • (3,27)お、はてなブックマークで補足されましたね。いやそれはいいんだけどさ、ただ、補足されたことを知らずに、エントリーを書きながら、エントリーのタイトルを変えちゃったんだよね。だから、はてなブックマークを見てこのエントリーを見に来た人は騙された感じを受けるかも知れないけれど、まあその、なんていうか、しかたないね。
  • (4,25)と思ったら、はてなブックマークの方でのタイトルを直して下さった方がいらっしゃいます。id:GiGir さん、ありがとうございました。
    • ところで参考までに書けば、変更前のタイトルは、「ニコニ広告が良く理解できない」でした。

*1:倫理学の用語として既に研究されていそうですなあ。知りませんが。

*2:この疑問はこのエントリーの最後で解決された。