プルーデンティアが『メンタリスト』をご自慢の PS3 で見ていると、背後からプロネーシスが声を掛けた。「プルーデンティア、到頭やっちまったようだな」

 「リズボン捜査官たん、嘘をついて一日中お家でアイス食べて過ごすとか、な、なんてかわい……」

 「帰ってくるんだプルーデンティア。午前二時半の急激な腹痛によってもう一日の予定をキャンセルしてしまいたい気持ちは分かる。でも心を強く持たなきゃ。『メンタリスト』は面白いよなあ。僕も好きだよ。特にあの、主人公の男、なんて言ったか」

 「パトリック・ジェーン」

 「そうパトリック・ジェーン。彼なんか、かなりいい役回りだと思う。僕も願わくばあんな風になりたいと思うよ。知的スーパースター。でも荒事はからっきし。そういうの、とっても「らしい」って思うよ。でもね、そういうのにかまけてちゃあいけないんだ。今日だけで何話見たの。一話 200 円でしょ」

 「九話」

 「そう。九話も。じゃあ 1800 円だ。DVD を借りた方が安上がりだっただろうに。」

 「……」

 プロネーシスの方を向き直りはしたものの、物憂げな視線を床に這わせてばかりのプルーデンティアにプロネーシスが言う。「プルーデンティア、到頭やっちまったな。尿路結石。生活習慣病のお隣さんの病気だ。貰ったパンフレットに書いてあったろ。もう限界だよ。頃合いさ。生活習慣を変えるんだ。文字通りね。尿路結石は再発率が高く、五年で 50 % が再発するそうだ。この 50 % には、何が何でも入っちゃいけないよなあ。今回のことはいい教訓として捉えるんだ。これを機に生活習慣を変えよう。人は変われる。今回のはとっても痛かったよなあ。いても立ってもいられないくらいだった。そうだろ。これで、また再発させるなんてのは阿呆のすることだ。ちゃんと回避できるはずなんだから。こんな痛い思いをしていながら、再発させるとしたら、そりゃ、ねえ、思慮深い君、喉元過ぎればってのを地でいくようなもんだろ。まさか、最早そんなことはしないよな」

 「勿論そんなつもりはないけど、プロネーシス」プルーデンティアは言葉を紡ぐのに不得手を覚えているようだった。

 「そのつもりがなくて、プルーデンティア、何だって言うの」

 「でも私はあなたが言っているよりもっとポジティヴに捉えたい。今回の件を奇貨とし、教訓を学ぶというのはいい。人は落ち込んでばかりはいられず、失敗をしたならばそこから教訓を得て同じ過ちをせぬよう努めねばならない。それはそう。七転び八起きというのは良い言葉だけれど、私は転んだならば起き上がらねばならず、そして私は転んだのだから起き上がるべきだ、というのは実に、……何と言うか、受け身的」

 「じゃあなんなの」

 「私は起き上がる為に転んだ。私は起き上がりたいがために転んだのだと、そう言いたい。最近私は自炊をしたいと思っていた。外食ばかりの生活に倦み、そろそろ自分で料理をしたいと思っていた。今回の件は渡りに船だった。踏ん切りを付けるのに丁度良かったってこと」

 「まあ、君が、そう思いたいなら君にとってはそうなのかも知れないけどさ、でも、あの痛みは、なんかそういう考え方を変えれば受容できるとか、そういう類のものじゃなかったよね」

 プルーデンティアは真顔で答えた。「あれはガチでやばい」