本への書き込みについて

  • おれが読んでいた《庄野潤三夕べの雲isbn:4061960156》は古本だったため、前の所有者による書き込み・傍線が何箇所かあった。次のものが一番気になった。

 ある日、小鶴旅館内と書いた手紙が来て、いま丁度、父と母が親戚のところへ出かけていて留守なので、帰り次第、お返事を差上げることと存じますと、娘さんらしい字で返事が遅れているお詫びを書いてあった。*1

  • という文の最後、「お詫びを書いてあった」の「を」に○が付けられ、線が上の方に伸びていて、「が」と一文字書いてあった。これはやはり、前の所有者はこの「を」は「が」と書くべきだと思っている、ということを示しているのだろう。
  • 文法的には、というか私が見る限り、この部分は「を」でも「が」でも筋は通ると思われる。というのも、「を」の場合は「Aを書いてあった」となって、主語無しで通用する「Aを書いておいた」の緩い別表現に見える。「が」の場合は、「Aが書いてあった」となってAが主語に立ち、「〜が書かれていた(あった)」の別表現に見える。けれどまあ、「が」の方がよく見る形式ではある気がする。
  • まあそんな文法上のことは割とどうでもよくて、それにしても一体編者によって採録された校訂済みの文章を読者が直すということはどういうことなのだろうか。他方で異言語の文章を訳すということは訳者の解釈を示すということなのだとすれば、今回のことは、「曲がりなりにも文章上の言葉ならここは「が」と書かないと誤りだろがこのヌル打ち!」ということなのだろうか。
  • まあきっとid:tata2やillegalなら何か言ってくれるでしょう。と話を振ってみる。とりあえずは振るだけ。