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オルケーストラはアテーナイ市の道路または広場で正面にはクレミュロスの家。左手よりみすぼらしい姿の盲目の老人が手探りで登場。そのあとからクレミュロスとその奴隷のカリオーンが続いて登場。二人は神託を求めた旅から帰ったしるしに月桂樹の枝でつくった冠をつけており、カリオーンは犠牲に供えた獣の肉の一片を手にさげている。*1

カリオーン
こいつはちょっと辛いことですよ、ゼウス様、神様方、頭がいかれちゃってるご主人様の下で奴隷をやるってのは。何しろ、召使いが良かれと思ってベストチョイスを出しても、ですよ、その主人の方がやらないと思えば召使いの方まで非道い目に遭うに決まってんだから。まあ自分の体を自由にする権利は自分にはなくて、それを金を出して買った人の所にある、というがこの世の定めですけどね。まあそれはいいや。ともかく、「かなしつらえの三脚台より予言述べたもう」*2 ロクスィア *3 様には、ヒトツ、こちらに理のある恨み言を言わさして頂きたい。人を癒す医師にして賢き、と言われているわけだけれど、まあそんな先のことを見通すことの出来る方が、ですよ、あたしのご主人様をウツロなまなこのまんまにして返してきやがった。そいでもってあの方はメクラの人間のあとをついて歩いてる。逆だろっての、本来あの人がすることと。

*1:邦訳 522。但し音引きを私の方針により変更した。以後、引き写すときにも断り無くこのように変更する。

*2:知られざる悲劇より。英訳 425。

*3:アポッローンの別名。